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東京地方裁判所 昭和42年(むのイ)260号 決定 1967年6月08日

主文

東京地方検察庁検察官検事○○○○が、昭和四二年四月六日なした押収の指輪(プラチナ台立爪ダイヤ〇、九一カラット無色)を申立人に還付せず、陳勇同こと小野勇同に還付する旨の処分を取消す。

同検察官は、右指輪を申立人に還付しなければならない。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨及びその理由は、申立人作成の準抗告請求書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二、当裁判所の判断

(一)  本件の経過

本件記録及び東京地方検察庁から取寄せた同庁の被疑者梶原繁次郎に関する窃盗被疑事件記録によると、申立人は、昭和四一年五月三日から同月四日までの間、申立人の当時の住居であった東京都渋谷区赤坂青山南町一丁目五五番地オギノ荘の居室において、その所有の主文記載のダイヤ指輪一個(時価四三万円相当)を盗難にあったとして同月四日、所轄の警視庁赤坂警察署に被害届を提出したこと、右窃盗事件の被疑者として梶原繁次郎が同年五月二九日逮捕され、以来同人は、右警察署及び東京区検察庁において取調べを受けたが、同検察庁は同年六月一八日、右被疑者を処分保留のまま釈放した上、同年七月九日、窃盗犯人と断定するに足る証拠がないことを理由に、事件を中止処分に付したこと、一方主文記載の指輪は同年五月二〇日売主斎藤公広名義で右梶原と古物商陳勇同こと小野勇同間において金二〇万円で売買契約が結ばれ、同日梶原から右小野にその占有の引渡しがなされたこと、そして同月二六日右警察署が小野からこれを押収しその後前記検察庁が承継し、現に東京地方検察庁において占有中であり、同検察庁検察官検事○○○○が昭和四二年四月六日、右指輪に対し、主文記載のような処分をなしたことが認められる。

(二)  右一件記録と当裁判所の事実調べの結果総合すると、申立人は昭和四一年五月三日から同月四日までの間に、東京都渋谷区赤坂青山南町一丁目五五番地オギノ荘内の当時の申立人の居室において、主文記載の指輪一個をなにびとかに窃取されたが、捜査の段階で右窃盗事件の犯人は特定されず、かつ、右指輪が申立人の占有を離脱してから、前記梶原繁次郎に至るまでの占有移転の経路はつまびらかではないが、この間申立人自身若くはこれに類する他の者が窃取された後の移動につき承諾を与える等、任意に関与した事実はないことが認められる。右の事実関係からすれば、窃盗犯人が不明であり、かつ、前記指輪の買受人である小野勇同に至るまでの経過が具体的に不明であったとしても、所謂盗難にあったことが判然としていてその後申立人において、その移動に関与する等中途で以後の賍物性を失わせるような事情がない限り、申立人は依然として右指輪の所有者であり、従ってこれが転々して何人の手中にあってもこれを追求する権利を喪失していないから(民法第一九三条、古物営業法第二一条、質屋営業法第二二条、各所定の期間については、本件申立が昭和四二年四月二八日であるから当然失権していない)刑事訴訟法第二二二条準用による同法第一二四条の被害者に該当すること明白である。

なお、刑事訴訟法第一二四条所定の還付すべき理由が明らかなときとは、被害者の有する実体上の返還請求権自体の存在が明白である場合を指すところ、前認定のように、少くとも被害者において、窃取されたことが明らかであり、更にその後これを承認したり或いはその他の方法で賍物性を失わせるような介入所為が存する等特殊の事情がない限り、右理由の存在は明白であると言うべく、買受人等の善意無過失の点や、真の窃盗犯人から買受人に至るまでの経路等が判然としなくても、右権利存否の明白性に消長をきたすものではないと解するのが相当である。このことは民法第一九三条、古物営業法第二一条質屋営業法第二二条の趣旨(殊に善意無過失を問わないことにつき)からも容易に首肯されるところである。

結局本件は、申立人に還付すべき理由が明らかな場合に該当する。

以上のとおりであるから、本件指輪は、所有権を有する被害者たる申立人に還付すべきところ、これを差出人たる前記小野勇同に還付することとした前記検察官の処分は当を得たものとは言い難い。

よって本件準抗告の申立は理由があるからこれを認容し、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤俊光)

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